2014年6月3日火曜日

第5回 「メーカーの販促費の変化」

今回は、「メーカーの販促費の動向」と題し、販促費に関して考えていきますが、ここでは、「販促費」とは、下記の3つを含むものと定義付けたいと思います。


① (狭義の)販促費:小売業の店頭に設置する販促物(POP・ディスプレイ等)や什器等の費用をメーカーが補填するもの。

② リベート:取引条件によってメーカーから支払われるインセンティブ。

③  拡売費:値引きやクーポン、キャッシュバックなどのプロモーション(キャンペーン)の原資として、または売場を確保するなどに対しての対価として、メーカーが支払う費用。

まず、国内の消費財メーカーは、①〜③の販促費をどのくらい投下しているものなのでしょうか?


販促費は、メーカーの市場内のポジションやカテゴリー特性によって、大きく変わってくる性格のものなので、一概には言えず、統計データ的なものが存在しませんが、下記は、次世代法政策学研究VOL19に紹介されている上場メーカー20社の販促費率の推移をみていくことにします。


図1:上場メーカー20社の販促費率の推移





出典:次世代法政策学研究VOL19(2013)


本資料によると、上場20社の対売上高販促費率は、1997年の14%から2004年の16.4%まで右肩上がりに上昇している一方、売上は横ばいと、この間の、メーカー内の販促費の比率が大きくなっている状況が見て取れます。
なお、2008年に対売上高販促費率が大きく落ちていますが、これは、集計対象になった大手2社が販促費を大幅に減らした事によるもので、これは販促費が下がった訳ではなく、価格が下落した分を取引価格に織り込んで生販価格を引き下げた事によるものです。

この調査の集計対象になった上場20社の集計値での対売上高販促費率は、15%前後という結果ですが、市場内での相対的なポジションが低いメーカーや特売比率の高いカテゴリーでは対売上高販促費率が20%を優に超える事例もあります。
一般的には、テレビCM等の広告宣伝費は、大体、対売上高比率で5%程度と言われますので、単純比較すると、広告宣伝費の約3倍の費用が流通向けの販促費に投下されているのが現状です。また、年々、対売上高販促費率は上昇していると見ることが出来ます。

メーカーの販促費の負担が大きくなる背景としては、今までのコラムでも紹介してきた人口減少等、市場全体が大きく伸びない中、上位小売業が大型化・寡占化している事やその中で、メーカー同士の競争はますます激しさを増している事が挙げられますが、こうした環境下で、メーカーとして考えていかなければいけない事とは何でしょうか?

当然ですが、販促費を沢山出したいと思っているメーカー・営業担当はいません。本当はこういう値段で売りたいと思っても、対競合メーカーとの競争の中で、小売業からの要請もあり、いろいろ条件を出さざるを得ない状況になっているという事です。小売業も自社の収益を高める為には、出来るだけ、「安く仕入れたい」「売る為の拡売費を負担してほしい」「売るからにはリベートも欲しい」となるのは当然の事です。



簡単な事例でこの問題を具体的に考えてみましょう。



昨年、ある期間で、通常仕切価格=100円に対し、10円の条件を出し、90円で販売した際に1,000個で9万円の実績だったとします。

今期は、更なる条件の要請を要請され、20円の条件を出し、80円で販売するとします。今期、売上ベースで昨年と同じ9万円の実績を上げる為には、最低でも1,188個以上(昨年比118.8%以上)を販売しないと金額ベースで減少する事になってしまいます。

一方、自社の利益の面で見ると、仮にこの商品の商品原価が50円だったと仮定すると、昨年、90円で販売した時の単品の利益額は40円、1,000個販売した時の利益額は40,000円になります。今期、80円で販売する時の単品の利益額は30円、昨年と同額の利益額を確保する為には、1333.3個(昨年比133.3%以上)と更にハードルは高くなる事が分かります。


まず、考えてみなければいけない事は、上記のようなシュミレーションを踏まえ、計画数量は達成可能な範囲にあるかという事です。提案先の小売業は、昨年に比べ、新店はどのくらい増えているのでしょうか?また、昨年実施した販促の内容は、今年、更に上積み可能な内容でしたでしょうか?

こうした点を踏まえ、メーカーの営業担当としてすべき提案は、条件を出したからには、売上や利益が下がるのでは意味がありませんので、少なくとも、今期は、売上ベースでは118.8%以上、利益ベースでは133.3%以上の計画数量を小売業に提案をし、合意をしなければ、販促費を出す意味がないという事になります。


小売業と数量計画を合意する為には、シンプルに言ってしまえば、「いつ、どの店舗で、どこで(場所)、どうやって売るか」という販促計画を提案し、小売業のバイヤーにも納得・合意してもらう事が必要になります。逆に言うと、数量計画の合意が出来る小売業でないと、販促費の投下は、往々にして、実効性に欠け、ふたをあけてみれば、販促費は出したが、売上・利益はあがらない事になってしまいます。

販促費を有効活用していく為には、小売業を担当する営業マンが、小売業のバイヤーと計画数量を合意し、適切に販促費を投下していく事で、計画数量を達成する業務プロセスが求められます。


また、その前提として、メーカーとして、営業マンの計画策定を後押しする為の施策のバックアップが必要になります。また、そもそも、どの小売業に対し、重点的に販促費を投下していくべきかの「重点化基準」も必要になってきます。

今回は、紙面が尽きましたので、次回は、最後に触れた上記を進めていく上で必要になる「キーアカウントマネジメント」について、触れていきたいと思います。