今回以降、数回に分け、「キーアカウントマネジメント」について触れていきたいと思っております。今回は、キーアカウントに対する取組・提案のあり方について推進プロセスと小売業サイドのニーズに関してを取り上げます。
まず、キーアカウントマネジメントを推進するにあたっての推進プロセスの全体像についてですが、下記の推進プロセスが大まかな流れです。
【キーアカウントマネジメントの推進プロセス】
キーアカウントマネジメントは、優先すべきアカウント、自社にとって、重要顧客を選定することからはじめます。自社にとっての重要顧客の選定については、前回、少し触れていますので、前回コラムを参照頂ければと思います。
重要顧客の選定の次にすべきステップは、「顧客を深く理解する事」です。顧客の深い理解に基づき、顧客の抱えるビジネス上の「問題・課題」、それを解決する「機会」を見出していきます。
次に、発見した機会に基づき、カテゴリーの目指すべき方向性と戦略を策定、それを具体的な実行計画=戦術に反映し、アカウントとのプランの合意と目標の共有化を図ります。
その後、確認された合意事項に基づき、計画を実践し、その結果をレビューし、「何が有効だったか?どこに改善が必要か?」を明確にしながら、アカウントとの取組を継続的に改善していこうというのが大まかなプロセスです。
上記のようなキーアカウントマネジメントの推進プロセスのお話しをすると、
「これって、営業のPDCAのサイクルを回す」という事とどう違うの?という声を頂く事がありますが、PDCAを回すという意味では大きな違いはありません。
但し、キーアカウントマネジメントにおいては、PDCAのPの部分のステップが、上記の図の中では、顧客の理解⇒機会の発見⇒戦略の策定⇒アカウントプランニング⇒プランの合意と各ステップが細分化されており、プランの検討ステップが非常に重要な要素として位置づけられているのが大きな特徴です。
メーカー営業の方から、「提案はしたものの、聞いてもらえなかった」とか「あそこは、条件面の要求が厳しく、提案しても聞いてもらえない」等の声をお聞きする事が多いですが、「提案した内容は、果たして、顧客の理解に基づく、顧客の抱えるビジネス上の「問題・課題」を解決出来るものだったのか?」を各プロセスに分けて、改めて、見直してみるという点が大きなポイントと言えます。
それでは、今回は、キーアカウントマネジメントの中で、顧客の選定後、キーアカウントマネジメントを推進していくにあたり、まず、入口になる「提案先の小売業のバイヤーが、メーカー営業に対してどんなニーズを持っているのか」という点について、考えてみたいと思います。
昨年、弊社では、ドラッグストアのバイヤーさん約100名に対し、アンケートを実施しました。所属されている企業の大きさも様々、担当されている部門は様々なバイヤーさん達の声です。
その中で、「メーカー営業担当者に対しての不満点」についてお聞きした設問の回答をご紹介します。アンケートに協力頂いたバイヤーさんの不満を集約すると、不満点は、大きく7つに集約されていますが、ここでは、上位4項目について、見てみる事にします。
図表1:メーカー営業担当者に対しての不満点
出典:弊社調べ(対象:ドラッグストアバイヤー/100名)
【メーカーの小売店戦略の不整合】と括った部分については、主に、小売業の規模による
販売条件やリベートの格差についての不満ですが、その中でも、「良い商品を、小売店を通じ、お客様にオススメする事で、商品を育成するといった基本的なメーカーと小売業の取組のスタンスに関しての意識が希薄になっているのではないか?」という指摘があがっています。
次に、【カテゴリー視点の欠落】と【押し込み志向が強く、目線が合わない】という指摘ですが、これは内容的には、ほぼ、同様と見る事が出来ます。主な声として、
「小売店の立場からすると、仕入れから販売まですべての支援を望みたいところだが、
大半のメーカー担当者は、小売店にとっての入口である仕入れにしか興味を示さない」
(商品が送り込まれて終わりではなく、売る事に対する意識が不足している)
「売場全体の売上アップより自社の商品の売込みが強い。提案の順番としては、売場全体を上げる提案の中で自社商品をアピールして欲しい」
「メーカーによっては自分のところの商品を売り込むことしか考えていない。小売は、メーカーの数字を上げるのではなく、カテゴリーの数字、引いては会社の数字を上げることが使命。上記を前提に考えなければ、商談や提案は平行線のままになってしまう」
「取組企業と認定して、条件等を変えてくるメーカーがいるが、リベートだけで店頭在庫は回転しないため、かえって取組がしにくくなる。 (どうやって売るか?を通じ)、カテゴリー全体の売上を上げることにこそ注力してほしい」
(自社商品を使って、カテゴリーや売場全体を活性化する視点が足りない)
(販売条件の問題もあるが、それ以前にカテゴリーや売場全体の数字を上げる提案が不足している)
といった指摘が出ています。これらの指摘は、バイヤーが期待するメーカーからの提案を考える上で、非常に重要な指摘です。
最後に【情報提供の不足】についてですが、主な声として、
「新商品のみの案内に終わっており、売り方に関する情報提供がない」
「新商品のみの案内しかなく、既存商品でも埋もれてしまっているが良い商品といった
切り口での情報提供や案内がない」
(利害が一致すれば担げる既存商品もあるはずだが、情報は新商品中心になっている)
といった点が挙げられています。こちらも、新商品の案内だけでなく、売り方に関しての情報や既存商品に関しての情報に対しての不足が指摘されています。
今回、ご紹介したようなバイヤーの不満点や要望は、直接、不満や要望を表明される事がなければ、潜在的なものではありますが、「キーアカウントマネジメント」を推進していく上でのメーカーの基本的な提案スタンスとして、まず確認しておくべきポイントです。
バイヤーが潜在的に考えるメーカーの提案に対する要望を踏まえ、取組のあるべき基本的な姿を再度確認すると、下記の5つのポイントとなります。
① カテゴリー全体・売場全体の売上/利益の拡大が目的に
② ①を上げる為に、主に自社商品(新商品だけでなく既存品を含む)を使った、その小売業さんの店頭でどうやって売るかの具体的な提案を行い、
③ 販売を支援する為の情報・ツール提供、販売条件等のサポートも提示しながら
④ 小売業とメーカー双方が、お互いにメリットを享受出来る提案である事を確認、目標を合意し、
⑤ 一緒になって目標を達成する為に取り組み、成果と課題を検証し、新たな課題を解決する為に取り組んでいく。
こうした事を見ていくと、
「こうしたニーズは、大手メーカーに対しての要望ではないか?ウチは、カテゴリー全体の事を語るメーカーでもないのでニーズが違うのではないか」といった声をお聞きする事がありますが、バイヤーさんの声を聞いてみると、そうでもないようです。
むしろ、単品の商談・提案であっても、「カテゴリーやサブカテゴリーの中で、その商品の位置づけや重要性」と「小売業さんの店頭を通じ、どうやって売っていくか?」
という2点については、商品や企画の採用を行うにあたっての重要な判断基準になっているという声が多くあがっているのも事実です。
今回、ご紹介したお話は、色々な所でよく言われている事ばかりですが、改めて、アカウントへの提案内容を見直していく上で、重要と思われますので、「上記のようなニーズを踏まえ、自社として、どのような提案があるべきか?」を考えて頂くご参考にして頂ければと思います。
次回以降も引き続き、キーアカウントマネジメントを考える上での、トピックスについて取り上げていきたいと思います。