第6回以降については、こうした現状を踏まえ、メーカーに求められる変化への対応方法について、今回は「トレードマーケティング」の重要性について、触れていきたいと思います。
かつて、日本の小売業の上位集中度が低かった時代、メーカーは、小売業を「販売チャネル」「販売先(売り先)」と考え、ブランドを販売していく上でのマーケティングミックスの一手段という捉え方をしていました。
少し、極端な表現にはなりますが、マスマーケティング全盛、小売業の上位集中度が低かった時代は、ブランドマーケティングありきで、小売業を「販売先」と捉え、「ダメなら他で売れば良い」という企業・営業活動だったと言えるかもしれません。
しかし、日本の小売業の上位集中度が高まってきた90年代後半から現在まで「トレードマーケティング」の重要性が叫ばれるようになってきました。
「トレードマーケティング」の重要性が増した背景としては、当然ではありますが、上位小売業に売上が集中してくると、上位小売業の対応次第で、メーカーの業績が大きく左右されるようになった為で、こうした課題に対処していく為には、販売チャネルの中で上位に位置づけられる小売業(キーアカウント)を「顧客」としてとらえ、「顧客」と良好な関係を結び、両社で情報を交換しながら、双方にとってメリットのある方向にビジネスを導いていく事が企業・営業活動上、非常に重要と位置付けられるようになってきました。
現在、既に、多くの企業で「トレードマーケティング」の重要性は理解され、実際に、
推進されている事と思いますが、ここでは、改めて、メーカーとしての「トレードマーケティング」の戦略構築のポイントを整理してみる事にします。
「トレードマーケティング」の戦略構築のポイント
1)どの小売業をキーアカウントと定義するか?
2)キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?
3)キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?
(プロモーション費用をどのように使っていくべきか?)
この中で、まず、考えるべきは、「どの小売業をキーアカウントと定義するか?」という点です。一般的には、キーアカウントとは「自社の大口取引先」と考えがちですが、必ずしも、大口取引先とイコールにはなりません。
メーカーにとってのトレートマーケティング戦略は、「市場において、複数のキーアカウントと取り組む事で、自社としての売上・収益が維持・拡大」出来る事が最大のポイントになりますので、その尺度は、自社の現状の売上規模にのみ求めるのは危険です。
キーアカウントを定義する主な尺度としては下記のような項目が代表的です。
キーアカウントを定義する為の主な尺度
1)アカウントの売上規模と成長性:売上規模・前年比・新店出店数・商圏シェア等
2)社の売上・利益:売上規模・前年比・カテゴリー内のインストアシェア等
販促費・限界利益の推移等
3)アカウントとの取組状況:情報交換の頻度・内容・情報開示・提案レベル等
「現在は取引額は小さいが、売上拡大の機会がある小売業」
「売上規模はトップではないが、協力関係があり、収益性がある小売業」
「売上規模は一番大きいが、競合メーカーとの競争が激しく、収益性が低い小売業」
トレードマーケティングの戦略構築を行う上では、こうした指標を勘案しながら、「どの小売業をキーアカウントと定義するか?」を市場全体で自社にとって現状最適になるように最適な収益ミックスが行えるように設定する事か最も重要なポイントです。
また、それぞれのキーアカウントにおいて、キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?を具体的に検討し、実行していく事が重要になります。
こうして、改めて、トレードマーケティングについて概観していくと、トレードマーケティングは「メーカーの営業戦略」の立案に関わる問題を取り扱っており、実際も、実務上、主に営業部門においてトレードマーケティングの戦略構築を検討していく事にはなります。
しかし、実際に、メーカー社内においてトレードマーケティング戦略を立案・実行していくと、むしろ、メーカーの「ブランドマーケティング」と並列的、または、同等に捉え、トレードマーケティングの戦略立案は「全社の課題」として議論され、決定されるべき性質のものだという事が分かってきます。
何故、ブランドマーケティングとトレードマーケティングを並列的、同等に捉えなければいけないか?トレードマーケティングは「メーカーの営業戦略」の立案のみの範囲に収まらないか?についてですが、昨今の小売業のPBへの取組状況を例にとりながら、考えていきたいと思います。
上記のデータは、大手小売業のPBにおける直近の売上です。
余談になりますが、その売上規模は数字を捉える事が出来た上記3社だけでも1兆5,000億円の規模にまで成長してきている事に改めて驚かされます。
トレードマーケティングにおいて、まず最初に進める「キーアカウントの選定」、そして、選定したキーアカウントにおいて、「メーカー・小売業双方にとってメリットのある方向にビジネスを導いていく」営業活動を実施するにあたって、キーアカウントのPBの取組状況に関しては避ける事の出来ない問題です。
当然ではありますが、PBは、自社の参入カテゴリーにおける小売業のPBの取組状況によっては、メーカーと小売業は、カテゴリー内においては「競合関係」になり、利害の不一致が起こりやすいものである為です。
例えば、上記の企業のいずれかをキーアカウントとして、
・キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?
・キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?
(プロモーション費用をどのように使っていくべきか?)
を考えていく場合。この企業が、自社の参入するカテゴリーにおいて、PBを積極的に取り扱う方針の場合に、下記の1〜3の対応方法を踏まえ、長期的に良好な関係構築を行い、自社の売上・利益を確保していくべきか?を検討することになります。
1)PBを受託し、NBは取引しない
2)PBは受託せず、NBのみしか取引しない
3)PBとNBの両方を取引する
「1」については、NBメーカーとしては選択肢としてはないと考えると、考えるべきは2/3の選択肢になります。
「2」の場合は自社のNBとしてのブランド力があり、PBの取引額が拡大しても、売上への影響が軽微と判断される場合に、「3」はPBの取引額が拡大すると、自社NBへの売上への影響が大きいと判断される場合の選択肢ですが、2/3を決めるにあたって、自社のブランドマーケティングの戦略と照らしながら考えていく必要がある問題です。
「3」の選択肢を取る場合には、自社ブランドとPBのポジションを整理し、どの範囲のPBを受託するかのPB受託の製品領域を決定しなければいけません。
また、「2」の選択肢を取る場合は、特に、キーアカウントでの取組において、営業部門として、長期的に良好な関係構築を行うには、自社NBが、常に、ブランド力が保たれ、且つ、毎期、カテゴリーの売上・利益を拡大する為のブランドマーケティングが実施される事が取組・提案の前提になってきます。
つまり、PBを受託するか否かを決めるにも、PBを受託せず、NBのブランド力でキーアカウントと取り組む場合いずれにおいても、自社のブランドマーケティングと照らしながらどう考えるかと密接に関係しており、営業部門単体で決められる性質の問題ではなくなっているという事が分かります。
また、この事は、ブランドマーケティングの戦略立案を行う上でも小売業が上位集中している現在では、大手小売業の取組状況や採用状況を外して考える事が出来ない状況下にある事を忘れてはいけません。
マスマーケティング全盛、小売業の上位集中度が低かった時代は、ブランドマーケティングありきで、小売業を「販売先」と捉え、「ダメなら他で売れば良い」では、現在は、通用しない時代になっているのが現在の市場環境と捉えるべきと言えるかもしれません。
つまり、「トレードマーケティング」の戦略立案を行うにも「ブランドマーケティング」 ⇔ 「トレードマーケティング」と並列的、または、同等に捉え、相互に「行き来」をしながら検討され、実行されるというプロセスを取らなければいけない、メーカーにおいて、ブランドマーケティングとトレードマーケティングはより密接に、相互に連携しながら、進めていかなければいけないという点をここでは改めて強調しておきたいと思います。
今回は、「トレードマーケティング」についてお話ししましたが、紙面が尽きました。
次回以降は、今回も触れたキーアカウントと設定した小売業とどのようなプロセスで提案活動や営業活動を進めていくべきか?という点について、お話ししていきたいと思います。