2014年9月2日火曜日

第7回 「キーアカウントマネジメント」

前回は、「トレードマーケティング」をテーマに、その重要性と、中でも、「どの小売業をキーアカウントと定義するか」という点、また、キーアカウントの小売業における戦略検討する上での留意点についてご紹介しました。

今回以降、数回に分け、「キーアカウントマネジメント」について触れていきたいと思っております。今回は、キーアカウントに対する取組・提案のあり方について推進プロセスと小売業サイドのニーズに関してを取り上げます。


まず、キーアカウントマネジメントを推進するにあたっての推進プロセスの全体像についてですが、下記の推進プロセスが大まかな流れです。


【キーアカウントマネジメントの推進プロセス】











キーアカウントマネジメントは、優先すべきアカウント、自社にとって、重要顧客を選定することからはじめます。自社にとっての重要顧客の選定については、前回、少し触れていますので、前回コラムを参照頂ければと思います。

重要顧客の選定の次にすべきステップは、「顧客を深く理解する事」です。顧客の深い理解に基づき、顧客の抱えるビジネス上の「問題・課題」、それを解決する「機会」を見出していきます。

次に、発見した機会に基づき、カテゴリーの目指すべき方向性と戦略を策定、それを具体的な実行計画=戦術に反映し、アカウントとのプランの合意と目標の共有化を図ります。

その後、確認された合意事項に基づき、計画を実践し、その結果をレビューし、「何が有効だったか?どこに改善が必要か?」を明確にしながら、アカウントとの取組を継続的に改善していこうというのが大まかなプロセスです。

上記のようなキーアカウントマネジメントの推進プロセスのお話しをすると、
「これって、営業のPDCAのサイクルを回す」という事とどう違うの?という声を頂く事がありますが、PDCAを回すという意味では大きな違いはありません。

但し、キーアカウントマネジメントにおいては、PDCAのPの部分のステップが、上記の図の中では、顧客の理解⇒機会の発見⇒戦略の策定⇒アカウントプランニング⇒プランの合意と各ステップが細分化されており、プランの検討ステップが非常に重要な要素として位置づけられているのが大きな特徴です。

メーカー営業の方から、「提案はしたものの、聞いてもらえなかった」とか「あそこは、条件面の要求が厳しく、提案しても聞いてもらえない」等の声をお聞きする事が多いですが、「提案した内容は、果たして、顧客の理解に基づく、顧客の抱えるビジネス上の「問題・課題」を解決出来るものだったのか?」を各プロセスに分けて、改めて、見直してみるという点が大きなポイントと言えます。

それでは、今回は、キーアカウントマネジメントの中で、顧客の選定後、キーアカウントマネジメントを推進していくにあたり、まず、入口になる「提案先の小売業のバイヤーが、メーカー営業に対してどんなニーズを持っているのか」という点について、考えてみたいと思います。

昨年、弊社では、ドラッグストアのバイヤーさん約100名に対し、アンケートを実施しました。所属されている企業の大きさも様々、担当されている部門は様々なバイヤーさん達の声です。

その中で、「メーカー営業担当者に対しての不満点」についてお聞きした設問の回答をご紹介します。アンケートに協力頂いたバイヤーさんの不満を集約すると、不満点は、大きく7つに集約されていますが、ここでは、上位4項目について、見てみる事にします。



図表1:メーカー営業担当者に対しての不満点 
出典:弊社調べ(対象:ドラッグストアバイヤー/100名)



【メーカーの小売店戦略の不整合】と括った部分については、主に、小売業の規模による
販売条件やリベートの格差についての不満ですが、その中でも、「良い商品を、小売店を通じ、お客様にオススメする事で、商品を育成するといった基本的なメーカーと小売業の取組のスタンスに関しての意識が希薄になっているのではないか?」という指摘があがっています。

次に、【カテゴリー視点の欠落】と【押し込み志向が強く、目線が合わない】という指摘ですが、これは内容的には、ほぼ、同様と見る事が出来ます。主な声として、

「小売店の立場からすると、仕入れから販売まですべての支援を望みたいところだが、
大半のメーカー担当者は、小売店にとっての入口である仕入れにしか興味を示さない」
(商品が送り込まれて終わりではなく、売る事に対する意識が不足している)

「売場全体の売上アップより自社の商品の売込みが強い。提案の順番としては、売場全体を上げる提案の中で自社商品をアピールして欲しい」

「メーカーによっては自分のところの商品を売り込むことしか考えていない。小売は、メーカーの数字を上げるのではなく、カテゴリーの数字、引いては会社の数字を上げることが使命。上記を前提に考えなければ、商談や提案は平行線のままになってしまう」

「取組企業と認定して、条件等を変えてくるメーカーがいるが、リベートだけで店頭在庫は回転しないため、かえって取組がしにくくなる。 (どうやって売るか?を通じ)、カテゴリー全体の売上を上げることにこそ注力してほしい」
(自社商品を使って、カテゴリーや売場全体を活性化する視点が足りない)
(販売条件の問題もあるが、それ以前にカテゴリーや売場全体の数字を上げる提案が不足している)

といった指摘が出ています。これらの指摘は、バイヤーが期待するメーカーからの提案を考える上で、非常に重要な指摘です。


最後に【情報提供の不足】についてですが、主な声として、

「新商品のみの案内に終わっており、売り方に関する情報提供がない」

「新商品のみの案内しかなく、既存商品でも埋もれてしまっているが良い商品といった
 切り口での情報提供や案内がない」
(利害が一致すれば担げる既存商品もあるはずだが、情報は新商品中心になっている)

といった点が挙げられています。こちらも、新商品の案内だけでなく、売り方に関しての情報や既存商品に関しての情報に対しての不足が指摘されています。



今回、ご紹介したようなバイヤーの不満点や要望は、直接、不満や要望を表明される事がなければ、潜在的なものではありますが、「キーアカウントマネジメント」を推進していく上でのメーカーの基本的な提案スタンスとして、まず確認しておくべきポイントです。


バイヤーが潜在的に考えるメーカーの提案に対する要望を踏まえ、取組のあるべき基本的な姿を再度確認すると、下記の5つのポイントとなります。


① カテゴリー全体・売場全体の売上/利益の拡大が目的に

② ①を上げる為に、主に自社商品(新商品だけでなく既存品を含む)を使った、その小売業さんの店頭でどうやって売るかの具体的な提案を行い、

販売を支援する為の情報・ツール提供、販売条件等のサポートも提示しながら

小売業とメーカー双方が、お互いにメリットを享受出来る提案である事を確認、目標を合意し、

一緒になって目標を達成する為に取り組み、成果と課題を検証し、新たな課題を解決する為に取り組んでいく。


こうした事を見ていくと、
「こうしたニーズは、大手メーカーに対しての要望ではないか?ウチは、カテゴリー全体の事を語るメーカーでもないのでニーズが違うのではないか」といった声をお聞きする事がありますが、バイヤーさんの声を聞いてみると、そうでもないようです。
むしろ、単品の商談・提案であっても、「カテゴリーやサブカテゴリーの中で、その商品の位置づけや重要性」と「小売業さんの店頭を通じ、どうやって売っていくか?」
という2点については、商品や企画の採用を行うにあたっての重要な判断基準になっているという声が多くあがっているのも事実です。

今回、ご紹介したお話は、色々な所でよく言われている事ばかりですが、改めて、アカウントへの提案内容を見直していく上で、重要と思われますので、「上記のようなニーズを踏まえ、自社として、どのような提案があるべきか?」を考えて頂くご参考にして頂ければと思います。

次回以降も引き続き、キーアカウントマネジメントを考える上での、トピックスについて取り上げていきたいと思います。

2014年7月14日月曜日

第6回 「トレードマーケティング」

過去5回に渡り、チャネル構造が変化し、且つ、小売業は上位集中化してきている事、消費者においては、世帯収入が伸びず消費支出も減少している事、その中で、メーカーの販促費は対売上高比で約15%ほどと増加傾向であり、広告宣伝費の3倍近くの費用になっており、メーカー側の負担が大きくなっている事例等をご紹介してきました。

第6回以降については、こうした現状を踏まえ、メーカーに求められる変化への対応方法について、今回は「トレードマーケティング」の重要性について、触れていきたいと思います。

かつて、日本の小売業の上位集中度が低かった時代、メーカーは、小売業を「販売チャネル」「販売先(売り先)」と考え、ブランドを販売していく上でのマーケティングミックスの一手段という捉え方をしていました。
少し、極端な表現にはなりますが、マスマーケティング全盛、小売業の上位集中度が低かった時代は、ブランドマーケティングありきで、小売業を「販売先」と捉え、「ダメなら他で売れば良い」という企業・営業活動だったと言えるかもしれません。

しかし、日本の小売業の上位集中度が高まってきた90年代後半から現在まで「トレードマーケティング」の重要性が叫ばれるようになってきました。
「トレードマーケティング」の重要性が増した背景としては、当然ではありますが、上位小売業に売上が集中してくると、上位小売業の対応次第で、メーカーの業績が大きく左右されるようになった為で、こうした課題に対処していく為には、販売チャネルの中で上位に位置づけられる小売業(キーアカウント)を「顧客」としてとらえ、「顧客」と良好な関係を結び、両社で情報を交換しながら、双方にとってメリットのある方向にビジネスを導いていく事が企業・営業活動上、非常に重要と位置付けられるようになってきました。


現在、既に、多くの企業で「トレードマーケティング」の重要性は理解され、実際に、
推進されている事と思いますが、ここでは、改めて、メーカーとしての「トレードマーケティング」の戦略構築のポイントを整理してみる事にします。


「トレードマーケティング」の戦略構築のポイント

 1)どの小売業をキーアカウントと定義するか?

 2)キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?

 3)キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?
   (プロモーション費用をどのように使っていくべきか?)


この中で、まず、考えるべきは、「どの小売業をキーアカウントと定義するか?」という点です。一般的には、キーアカウントとは「自社の大口取引先」と考えがちですが、必ずしも、大口取引先とイコールにはなりません。
メーカーにとってのトレートマーケティング戦略は、「市場において、複数のキーアカウントと取り組む事で、自社としての売上・収益が維持・拡大」出来る事が最大のポイントになりますので、その尺度は、自社の現状の売上規模にのみ求めるのは危険です。
キーアカウントを定義する主な尺度としては下記のような項目が代表的です。


キーアカウントを定義する為の主な尺度

  1)アカウントの売上規模と成長性:売上規模・前年比・新店出店数・商圏シェア等

  2)社の売上・利益:売上規模・前年比・カテゴリー内のインストアシェア等
    販促費・限界利益の推移等

  3)アカウントとの取組状況:情報交換の頻度・内容・情報開示・提案レベル等



「現在は取引額は小さいが、売上拡大の機会がある小売業」 
「売上規模はトップではないが、協力関係があり、収益性がある小売業」
「売上規模は一番大きいが、競合メーカーとの競争が激しく、収益性が低い小売業」


トレードマーケティングの戦略構築を行う上では、こうした指標を勘案しながら、「どの小売業をキーアカウントと定義するか?」を市場全体で自社にとって現状最適になるように最適な収益ミックスが行えるように設定する事か最も重要なポイントです。
また、それぞれのキーアカウントにおいて、キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?を具体的に検討し、実行していく事が重要になります。


こうして、改めて、トレードマーケティングについて概観していくと、トレードマーケティングは「メーカーの営業戦略」の立案に関わる問題を取り扱っており、実際も、実務上、主に営業部門においてトレードマーケティングの戦略構築を検討していく事にはなります。

しかし、実際に、メーカー社内においてトレードマーケティング戦略を立案・実行していくと、むしろ、メーカーの「ブランドマーケティング」と並列的、または、同等に捉え、トレードマーケティングの戦略立案は「全社の課題」として議論され、決定されるべき性質のものだという事が分かってきます。
何故、ブランドマーケティングとトレードマーケティングを並列的、同等に捉えなければいけないか?トレードマーケティングは「メーカーの営業戦略」の立案のみの範囲に収まらないか?についてですが、昨今の小売業のPBへの取組状況を例にとりながら、考えていきたいと思います。



※出典:各社決算説明会資料より。単位:億円


上記のデータは、大手小売業のPBにおける直近の売上です。
余談になりますが、その売上規模は数字を捉える事が出来た上記3社だけでも1兆5,000億円の規模にまで成長してきている事に改めて驚かされます。

トレードマーケティングにおいて、まず最初に進める「キーアカウントの選定」、そして、選定したキーアカウントにおいて、「メーカー・小売業双方にとってメリットのある方向にビジネスを導いていく」営業活動を実施するにあたって、キーアカウントのPBの取組状況に関しては避ける事の出来ない問題です。

当然ではありますが、PBは、自社の参入カテゴリーにおける小売業のPBの取組状況によっては、メーカーと小売業は、カテゴリー内においては「競合関係」になり、利害の不一致が起こりやすいものである為です。


例えば、上記の企業のいずれかをキーアカウントとして、

・キーアカウントと長期的に良好な関係をどのように構築していくべきか?
・キーアカウントと取り組む事でどのように売上・利益を確保していくべきか?
(プロモーション費用をどのように使っていくべきか?)

を考えていく場合。この企業が、自社の参入するカテゴリーにおいて、PBを積極的に取り扱う方針の場合に、下記の1〜3の対応方法を踏まえ、長期的に良好な関係構築を行い、自社の売上・利益を確保していくべきか?を検討することになります。

  1)PBを受託し、NBは取引しない
  2)PBは受託せず、NBのみしか取引しない
  3)PBとNBの両方を取引する


「1」については、NBメーカーとしては選択肢としてはないと考えると、考えるべきは2/3の選択肢になります。

「2」の場合は自社のNBとしてのブランド力があり、PBの取引額が拡大しても、売上への影響が軽微と判断される場合に、「3」はPBの取引額が拡大すると、自社NBへの売上への影響が大きいと判断される場合の選択肢ですが、2/3を決めるにあたって、自社のブランドマーケティングの戦略と照らしながら考えていく必要がある問題です。

「3」の選択肢を取る場合には、自社ブランドとPBのポジションを整理し、どの範囲のPBを受託するかのPB受託の製品領域を決定しなければいけません。

また、「2」の選択肢を取る場合は、特に、キーアカウントでの取組において、営業部門として、長期的に良好な関係構築を行うには、自社NBが、常に、ブランド力が保たれ、且つ、毎期、カテゴリーの売上・利益を拡大する為のブランドマーケティングが実施される事が取組・提案の前提になってきます。

つまり、PBを受託するか否かを決めるにも、PBを受託せず、NBのブランド力でキーアカウントと取り組む場合いずれにおいても、自社のブランドマーケティングと照らしながらどう考えるかと密接に関係しており、営業部門単体で決められる性質の問題ではなくなっているという事が分かります。
また、この事は、ブランドマーケティングの戦略立案を行う上でも小売業が上位集中している現在では、大手小売業の取組状況や採用状況を外して考える事が出来ない状況下にある事を忘れてはいけません。

マスマーケティング全盛、小売業の上位集中度が低かった時代は、ブランドマーケティングありきで、小売業を「販売先」と捉え、「ダメなら他で売れば良い」では、現在は、通用しない時代になっているのが現在の市場環境と捉えるべきと言えるかもしれません。

つまり、「トレードマーケティング」の戦略立案を行うにも「ブランドマーケティング」 ⇔ 「トレードマーケティング」と並列的、または、同等に捉え、相互に「行き来」をしながら検討され、実行されるというプロセスを取らなければいけない、メーカーにおいて、ブランドマーケティングとトレードマーケティングはより密接に、相互に連携しながら、進めていかなければいけないという点をここでは改めて強調しておきたいと思います。


今回は、「トレードマーケティング」についてお話ししましたが、紙面が尽きました。

次回以降は、今回も触れたキーアカウントと設定した小売業とどのようなプロセスで提案活動や営業活動を進めていくべきか?という点について、お話ししていきたいと思います。

2014年6月3日火曜日

第5回 「メーカーの販促費の変化」

今回は、「メーカーの販促費の動向」と題し、販促費に関して考えていきますが、ここでは、「販促費」とは、下記の3つを含むものと定義付けたいと思います。


① (狭義の)販促費:小売業の店頭に設置する販促物(POP・ディスプレイ等)や什器等の費用をメーカーが補填するもの。

② リベート:取引条件によってメーカーから支払われるインセンティブ。

③  拡売費:値引きやクーポン、キャッシュバックなどのプロモーション(キャンペーン)の原資として、または売場を確保するなどに対しての対価として、メーカーが支払う費用。

まず、国内の消費財メーカーは、①〜③の販促費をどのくらい投下しているものなのでしょうか?


販促費は、メーカーの市場内のポジションやカテゴリー特性によって、大きく変わってくる性格のものなので、一概には言えず、統計データ的なものが存在しませんが、下記は、次世代法政策学研究VOL19に紹介されている上場メーカー20社の販促費率の推移をみていくことにします。


図1:上場メーカー20社の販促費率の推移





出典:次世代法政策学研究VOL19(2013)


本資料によると、上場20社の対売上高販促費率は、1997年の14%から2004年の16.4%まで右肩上がりに上昇している一方、売上は横ばいと、この間の、メーカー内の販促費の比率が大きくなっている状況が見て取れます。
なお、2008年に対売上高販促費率が大きく落ちていますが、これは、集計対象になった大手2社が販促費を大幅に減らした事によるもので、これは販促費が下がった訳ではなく、価格が下落した分を取引価格に織り込んで生販価格を引き下げた事によるものです。

この調査の集計対象になった上場20社の集計値での対売上高販促費率は、15%前後という結果ですが、市場内での相対的なポジションが低いメーカーや特売比率の高いカテゴリーでは対売上高販促費率が20%を優に超える事例もあります。
一般的には、テレビCM等の広告宣伝費は、大体、対売上高比率で5%程度と言われますので、単純比較すると、広告宣伝費の約3倍の費用が流通向けの販促費に投下されているのが現状です。また、年々、対売上高販促費率は上昇していると見ることが出来ます。

メーカーの販促費の負担が大きくなる背景としては、今までのコラムでも紹介してきた人口減少等、市場全体が大きく伸びない中、上位小売業が大型化・寡占化している事やその中で、メーカー同士の競争はますます激しさを増している事が挙げられますが、こうした環境下で、メーカーとして考えていかなければいけない事とは何でしょうか?

当然ですが、販促費を沢山出したいと思っているメーカー・営業担当はいません。本当はこういう値段で売りたいと思っても、対競合メーカーとの競争の中で、小売業からの要請もあり、いろいろ条件を出さざるを得ない状況になっているという事です。小売業も自社の収益を高める為には、出来るだけ、「安く仕入れたい」「売る為の拡売費を負担してほしい」「売るからにはリベートも欲しい」となるのは当然の事です。



簡単な事例でこの問題を具体的に考えてみましょう。



昨年、ある期間で、通常仕切価格=100円に対し、10円の条件を出し、90円で販売した際に1,000個で9万円の実績だったとします。

今期は、更なる条件の要請を要請され、20円の条件を出し、80円で販売するとします。今期、売上ベースで昨年と同じ9万円の実績を上げる為には、最低でも1,188個以上(昨年比118.8%以上)を販売しないと金額ベースで減少する事になってしまいます。

一方、自社の利益の面で見ると、仮にこの商品の商品原価が50円だったと仮定すると、昨年、90円で販売した時の単品の利益額は40円、1,000個販売した時の利益額は40,000円になります。今期、80円で販売する時の単品の利益額は30円、昨年と同額の利益額を確保する為には、1333.3個(昨年比133.3%以上)と更にハードルは高くなる事が分かります。


まず、考えてみなければいけない事は、上記のようなシュミレーションを踏まえ、計画数量は達成可能な範囲にあるかという事です。提案先の小売業は、昨年に比べ、新店はどのくらい増えているのでしょうか?また、昨年実施した販促の内容は、今年、更に上積み可能な内容でしたでしょうか?

こうした点を踏まえ、メーカーの営業担当としてすべき提案は、条件を出したからには、売上や利益が下がるのでは意味がありませんので、少なくとも、今期は、売上ベースでは118.8%以上、利益ベースでは133.3%以上の計画数量を小売業に提案をし、合意をしなければ、販促費を出す意味がないという事になります。


小売業と数量計画を合意する為には、シンプルに言ってしまえば、「いつ、どの店舗で、どこで(場所)、どうやって売るか」という販促計画を提案し、小売業のバイヤーにも納得・合意してもらう事が必要になります。逆に言うと、数量計画の合意が出来る小売業でないと、販促費の投下は、往々にして、実効性に欠け、ふたをあけてみれば、販促費は出したが、売上・利益はあがらない事になってしまいます。

販促費を有効活用していく為には、小売業を担当する営業マンが、小売業のバイヤーと計画数量を合意し、適切に販促費を投下していく事で、計画数量を達成する業務プロセスが求められます。


また、その前提として、メーカーとして、営業マンの計画策定を後押しする為の施策のバックアップが必要になります。また、そもそも、どの小売業に対し、重点的に販促費を投下していくべきかの「重点化基準」も必要になってきます。

今回は、紙面が尽きましたので、次回は、最後に触れた上記を進めていく上で必要になる「キーアカウントマネジメント」について、触れていきたいと思います。


2014年4月28日月曜日

第4回 「消費者のメディア接触の変化」

今回は、まず、日本の広告費に見る直近のトレンドをご紹介しながら、ここ数年の広告から見た消費者に対するコミュニケーションの変化について見ていきたいと思います。

株式会社電通の「2013年の日本の広告費」のデータを元に、2005年から2013年の広告費の変化がどうなっているかを見ていきます。


図表1:日本の広告費 (単位:億円)



















※出典:株式会社電通の「2013年の日本の広告費」  


図表2:媒体別広告費 (単位:億円)



※出典:株式会社電通の「2013年の日本の広告費」  




日本の総広告費は、2005年以降では、2007年の7兆191億円をピークに、2008年以降、広告費総額としては下降傾向で推移していましたが、2013年は5兆9,762億円、前年比101.4%と2年連続増加となっています。

媒体別に見ていくと、広告費ではテレビが1位、次いで、2009年を境に2位はインターネット広告、次いで新聞、雑誌、ラジオの順となっています。

また、各媒体の伸張率を広告費が最大だった2007年対比でみると、テレビ=90%、インターネット広告=156%、新聞=65%、雑誌=55%、ラジオ=74%となっており、インターネット広告費の伸張が特に著しい事が見て取れます。


ご存じのようにこうした広告費の変化の背景としては、消費者のメディア媒体への接触の変化が背景にあります。

株式会社博報堂DYメディアパートナーズの「メディア定点調査2013」によると、東京地区の調査結果ではありますが、1日のメディア接触時間の推移は下記の通りになっています。
消費者の1日のメディア接触時間は、ここ数年、350分(5.8時間)で推移していますが、2013年では、携帯電話(スマートフォン含む)からのインターネット接続時間が大幅に増加しており、全体のメディア接触時間の35%を占めるに至っています。




図表3:媒体別接触時間 (単位:分)


※出典:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2013」  



更に、媒体別接触時間を、性×年代別にみてみると、

・テレビ:男性に比べ女性の接触時間が長く、年代が上がるごとに接触時間が長くなる

・新聞:特に60代以上の男女で接触時間が長くなる

・PCからのインターネット接続:10〜30代での接触時間が長くなる

・携帯電話からのインターネット接続:10代・20代の接触時間が長くなる


という傾向が顕著になっており、性×年代別にメディア接触時間は大きく異なっている事が分かります。

前回、消費者の世帯収入について触れた時にも言及しましたが、ブランドのターゲットとする性・年代により、大きくメディア接触の状況が異なり、メーカー側のコミュニケーション戦略も、「平均的、総花的な」ものから、「どの層のお客様がターゲットなのか」という点が重要になってくると言えます。



図表4:性×年代別媒体別接触時間 (単位:分)


※出典:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 「メディア定点調査2013」 


上記の通り、こうした消費者のメディア接触の変化を受けて、メーカーを中心とする媒体別広告費は変化していますが、投下した広告費を自社の収益に繋げていく為には、「消費者の店頭での購入」に結び付けていかなければ意味がありません。

これは以前から言われている事ですが、新製品においては、広告を見て新製品を購入したという方は新製品購入者の1割強しかおらず、店頭で購入する事を決めた非計画購買は5割弱を占めるといわれています。

例えば、テレビ広告において、消費者のメディア接触頻度は相対的に低下している事から考えると、従来以上に、店頭での定番以外での露出を拡大させる事、また、購入に繋げていく為の店頭での情報提供が重要になってきていると言え、昨今、「店頭の重要性」が叫ばれるようになって久しいのはご存じの通りです。


以上、簡単ではありますが、4回目は広告や消費者のメディア接触についてご紹介しました。


次回5回目は、メーカーの販促費に関連する話をしていく予定です。

2014年4月14日月曜日

第3回 「消費者の変化」

今回は1回目の「チャネル構造の変化」 「上位小売業の変化」に続き、家計消費の変化に見る消費者の変化について見ていきたいと思います。今回は、まず、総務庁統計局発表の家計調査年報のデータから、2000年から2013年で世帯の家計消費支出の変化がどうなっているかを見てみる事にします。

図表1:1世帯当たり年平均1か月間の支出(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)




図表2:1世帯当たり平均所得金額の年次推移(平成24年国民生活基礎調査)




●伸びない消費、伸びない世帯年収

●二極化の定着

まず、図表1を見ると、家計調査年報によれば、1世帯当たり年平均1か月間の支出(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)は、13年では319,170円で、ここ数年は少し右肩あがりではありますが、2000年と比較すると93.4%(金額ベースで月平均▲22,726円)と、消費支出全体は落ち込んでいる事が分かります。
次に、世帯消費が伸びない大きな要因ですが、図表2の1世帯あたり平均所得金額を見ると、2000年以降、世帯あたりの平均所得は大きく下がっている事が分かります。金額ベースでは、2000年比で、68.7万円のダウン(月平均▲57,250円)となっていますので、2000年比で世帯収支は悪化している事が分かります。

また、平均所得金額は548万2千円の、1世帯あたり平均所得金額の度数分布をみると、平均所得金額以下の世帯は62.3%と平均所得以下の世帯構成が高くなっています。

この事から、昨今、世帯所得の状況は、世帯所得の二極化と合わせ、世帯所得が平均以下の方が多い構造になっている事が分かります。余談にはなりますが、こうした現在の市場環境は、「平均的な世帯像」や「平均的な消費行動」がとらえづらく、「どの層のお客様がターゲットなのか」という点が重要になってくると言えそうです。

図表3:世帯数の所得金額階級別相対度数分布




●世帯収入が伸びない中、消費支出のやりくりが進んでいる

次に、世帯消費が伸びない中、品目別の消費支出金額はどのように推移しているのでしょうか?
ここでは、対2000年の2013年の消費支出金額の対2000年比と2013年の消費支出金額をグラフ化
してみました。


図表4:支出分類別1世帯当たり年平均1か月間の支出(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)




●2000年と比較して伸張しているもの

交通・通信(120.5%) / 光熱・水道(108.4%) / 保健医療(106.4%) / 教育(104.2%)

交通・通信は、特に、自動車関連(購入・維持等)や通信費(スマートフォン等の携帯電話)の伸張によるもの。光熱・水道は、近年の電気代の値上げの影響によるもので、どれも積極的な支出で伸張しているものは少なくなっています。

●2000年と比較して落ちているもの

食料費(93.9%) / その他の消費支出(76.2%) / 教養娯楽(91.3%)/ 住居(91.1%) / 家具・家事用品(92.2%) / 被服及び履物(79.8%)

落ち込みが見られるものの中で、特に顕著なのは、その他の消費支出と被服及び履物になります。
その他の消費支出の中では、こづかいや交際費が大きく落ち込んでいます。
また、被服及び履物は、全体的に消費支出は大きく下降と、2000年以降、「不要不急」な支出に関して絞っている様子が分かります。こうした市場環境下で、第2回に触れた、大きく伸張した小売業を重ねあわせると、ファーストリテイリング、しまむら等のいわゆるSPA(製造小売業)業態が、家具ではIKEA等が元気な理由もわかります。

また、家計支出の中で、支出額が最大の食費に関しても、対2000年比で6.1%ほど、ダウンしている中で、食品スーパーやGMS、ドラッグストアやCVSも含めた業態間競争がますます激化している状況下で、価格競争はますます激化していると言えます。


以上、簡単ではありますが、消費者の世帯収入、家計消費支出の動向を見てきました。今回は、紙面も尽きましたので、次回4回目は、広告費や販促費の推移について、触れていきたいと思います。

2014年3月25日火曜日

第2回 「上位小売業の変化」

今回は、第1回目の「チャネル構造の変化」に続き、日本の上位小売業がどのように変化しているかについて見ていきます。1995年の小売業売上上位25社と2011年の小売業売上上位25社を比較してみました。

図表1:1995年度の小売業売上上位25社



図表2:2011年度の小売業売上上位25社



1995年と2011年の間での日本の小売業の売上上位25社を概観すると、改めて、その変化には驚かされます。読み取れる変化のポイントについて、4つの視点で整理することが出来ます。

1.上位小売業への寡占化が進行している。

上記の上位小売業25社を合計した金額を集計してみると、1995年度の15兆6901億円に対し、2011年度は25兆8828億円と1.65倍になっています。この間、全体市場の大幅な伸張は見られない事から、この期間で、急速に上位小売業への寡占化が進んでいる事が分かります。

 2.企業間の合併・連衡の活発化

1995年以降、特に、1997年の消費増税以降、経営破たんする企業を吸収する形での、また競争力を高める為の大手企業同士の企業間の合併・連衡が進んでいます。1995年当時の上位企業で、そのままの経営形態・母体で2011年も存続している小売業は数少ない事が分かります。

3.GMSや百貨店が苦戦する一方で専門型業態が躍進している。

1995年当時の上位小売業は、GMSと百貨店で占められていましたが、2011年では家電や衣料等の専門店やドラッグストア、ホームセンター等の業態が大幅に伸張した事が分かります。一言で申し上げると、この間、GMSや百貨店の従来型の業態が苦戦する中、専門型業態が大きく躍進していることが分かります。

4.SPA(製造小売業)、価格競争力を売りにする企業の躍進

ファーストリテイリング、しまむら等のいわゆるSPA(製造小売業)業態、プライベートブランドを保有し、価格競争力を売りにする企業の躍進を見てとる事が出来ます。


以上、1995年と2011年の変化を4つの視点で整理してみました。これらのキーワードから導かれるメーカーが求められる対応とは何でしょうか?

小売業の上位寡占化に伴い、大型化・専門化した小売業のマーケティングは格段に高度化・専門化しています。今や、日々の店舗での販売動向がタイムリーに反映されるPOSデータで売れ行きをすぐに把握出来るのは当たり前で、会員カードを保有する小売業では顧客情報を活用したチラシ以外の販促が活発になってきています。今や、チラシは、ネット上でも配信され、スマートフォンでもお客様が閲覧出来、且つ、便利なアプリで、お得な情報をお客様にお届けする事は日常化しています。



こうした変化に対して、メーカー営業が求められる対応も高度化・専門化しているといえます。一言で言うと、ブランド・商品の選択と店舗の選択の主権をもつ消費者(お客様)に対して、ブランド力・商品力を持つメーカーと集客力を持つ小売業が、お客様に対して協働で、マーケティングを実践していく為に、必要なスキルと専門性、ひいては、メーカーとしての企業力・総合力が求められていると言えます。

もはや、メーカー営業は、「自社商品を得意先に売り込む」ためには、参入カテゴリーを中心とする消費者やカテゴリー理解をベースにし、あるべき品揃えや棚割、お客様への効果的なプロモーション施策等の小売業のカテゴリーを中心とするマーケティングプランの立案・提案・実行・検証という役割を担う必要が出てきていると見ることが出来ます。



「チャネル構造の変化」、「日本の上位小売業の変化」と2回に渡り、チャネルや小売業の変化について概観してきました。次回は、「消費者の変化」について、見ていきたいと思います。

2014年3月10日月曜日

第1回 「チャネル構造の変化」


1回目のテーマは、「チャネル構造の変化」です。

まず、実態把握を進める上で、各業界団体から発表されている、2012年のチャネル別の市場規模と対08年比の動向をを整理してみました。




図表1:チャネル年間市場規模(2012年) 単位:億円



図表2:チャネル別12年度市場規模対08年比


出典:
・ドラッグストア:日本チェーンドラッグストア協会(JACDS
2012年度日本のドラッグストア実態調査2012年度日本のドラッグストア実態調査データより
・ホームセンター:日本ドゥ・イット・ユアセルフ協会公表データより
・コンビニエンスストア:日本フランチャイズチェーン協会公表データより
・通信販売:公益社団法人日本通信販売協会公表データより
・スーパー:日本チェーンストア協会公表データより
・百貨店:日本百貨店協会公表データより



ご存じのように日本の総人口は減少傾向、パイが増えない中、6業態の合計は、約43兆円
12年市場規模の08年対比は102.9%と微増となっています。

しかしながら、チャネル毎には、①通信販売 ②CVS ③Dgs のチャネルが大きく伸張する一方で、百貨店、SMは減少している事が分かります。


食品を中心にチャネル間競争の現状を見てみると、例えば、2013年において、CVSの主力チェーンの新規出店は、1500店舗を超える勢いです。昨今のCVSは、震災以来、日配(食品・牛乳・乳製品等)等の伸びが顕著で、ミニスーパー化しています。また、Dgsにおいても、食品部門の売上構成比が50%に迫るチェーンも増加しており、こぞって、食品部門の強化を図っています。食品を中心とした市場においては、SMの持っていたパイが、CVSDgs等に奪われているとみる事が出来ます。

また、昨今の通信販売は、従来の書籍やCD/DVDといった分野だけでなく、家電量販や  食品等にも取扱いの範囲を広げているのはご存じの通りです。例えば、身近な商品でも、ペット用品等に関しては、かつては、HCが主力チャネルでしたが、昨今では通信販売でのペット用品の伸張も顕著で、HCの構成比が減少傾向で、通信販売が大きく伸張するという
構造が色濃くなってきています。

こうしたチャネル構造の変化を考える上でのキーワードは、「商品を購入される消費者(生活者)に、どのチャネルで購入するのが便利かというチャネル選択の主導権が移っている」
という事に他なりません。必然的に、消費者(生活者)に対して、メーカーとして、
「どのチャネルでも買える」状況を作り出す事がより重要になっています。

しかし、こうした変化するチャネル構造に対しての対応は、従来、「どのチャネルでも売れてほしい」というマス型商品の対応では立ちいかなくなっているのが実情ではないでしょうか?

マーケティング的な視点で見ると、4Pの中のPLACEに関係する、「チャネル戦略」や
チャネル内での伸びているチェーンとの取組は、メーカーのマーケティングを考える上で、非常に重要な要素になってきていると言えます。また、「チャネル専用」等の、PRODUCT
にまで踏み込む必要性が高くなってきているとも言えます。

・御社のブランドは、伸びているチャネルで順調に実績を伸ばせていますか?

・御社のブランドは、チャネル内での伸びているチェーンで順調に実績を
伸ばせていますか?

・また、こうしたチャネル戦略やキーアカウント(重点小売業)との取組内容は十分に
 検討され、課題を解決出来ていますか?

という課題に対しての対応力が、メーカーのマーケティング戦略の成否、ひいては、収益に直結する時代になっていると言えそうです。
次回は、「チャネル構造の変化」に続き、「日本の上位小売業の変化」について、見ていきたいと思います。